執筆・論文

医療保険商品のリコメンデーションに関する研究

1. 研究の背景・目的
我が国における人口構造の問題は、急速な高齢化社会とともに公的な医療保障制度において重大な影響を及ぼしている。また、高齢化に伴う医療費の増加と財政への影響から患者に対する自己負担の増加などにより公的な医療保障制度に対する不安が起こっている。公的な医療保障の補完的な役割を果たしている民間の医療保険のニーズが高まっており、医療保険に加入することは私たちにとって身近で重要な問題となってきている。
民間の医療保険商品は、最近の規制緩和と競争激化により多くの商品が販売されるようになった。また、保障内容についても様々なタイプのものが販売され、加入希望者が商品を検討することを難しくしている。以上のことから、加入希望者に対してのリコメンデーションが必要になっている。
本研究では、医療保険の加入希望者が医療保険商品を購入検討時に決定すべき重要事項について、保険会社の商品案内及び約款、患者調査データ及び保険原価から分析を行い明らかにすることを目的とする。

2. 研究対象
2.1 民間の医療保険
 本研究でとりあげている、医療保険などの分野はいわゆる「第三分野」と呼ばれている保険で、人の生死に対し一定の金額を払う生命保険(第一分野)や損害保険(第二分野)のいずれにも属さない保険のことである。
医療保険の基本的な保障内容は、ケガや病気で入院したときに保険加入時に設定した基本金額に入院日数を乗じた金額が支給される。さらに特約などを付加することで(商品として組み込まれていることもある)、手術、通院、特定の病気、死亡時などに給付金や保険金を支給する商品もある。
2.2 保障内容と約款
 保険契約における保障内容が詳細に記述されているものが約款である。商品内容を検討する場合には約款を読み、各商品で比較検討することになる。しかし、この作業は大変である。さらに、販売されている商品においては、保険会社は比較されないようにするために保障内容に差をつけているため、同じ条件で比較することは困難な状況である。例えば、最近販売されている女性疾病の保障おいて、名称はほとんど同じであっても各社の約款を比較すると保障される内容が異なることが分かる。

3. 研究アプローチ
 まず、リコメンデーションにおいて、多くの商品から選択するために必要となる入力項目を見つけるため、約款に記述されている保障項目に注目し販売されている各保険会社の商品約款から項目を拾い出し、各項目の関係性を見つけそこから重要事項を導きだす仮説を立て実施した。
次に、医療保険に必要な保障内容についてどのような項目で決まるのかについてさらに検討した。分析のアプローチは、@約款の保障項目に販売時における条件項目を加えた内容による関係性の分析、A医療保険の保障内容としてもっとも基本的な要素である入院日数に影響を与えている疾病の状況を患者データから分析、B保険原価からの分析によりリコメンデーションにおける重要な事項を明らかにすることにした。

4. 分析内容
4.1 約款等による分析
 保険会社の約款より保障内容の項目を拾い出し分類を行い、各項目を数値化してWEKAを使用して関係性について分析を行った。また、約款の項目に販売時の資料から販売条件を項目として加えて同じ分析を行った。(図1)
 約款のみの項目分析では、関係性が見られなかった。このことは、保険商品を比較する上で様々な状態であることが裏付けられる結果となった。さらに、販売条件を加味した項目では、加入年齢と一入院あたりの保障期間について逆相関があった。最近販売されている中高齢者向けの商品は、保険料の関係から保障期間が短く設定されているためと考えられる。
4.2 疾病状況による分析
 医療保険の給付側である保険会社の立場であれば、個々の疾病については問題にならないが、加入者側にとってはどの病気になるのか重要な問題となる。給付条件になっている入院日数(退院患者の平均在院日数)についてみると、疾病の種類により大きく異なる。全疾病の平均入院日数は、37.9日であるあるが、脳血管疾患では102.1日である。
さらに、年齢階層別に三大疾病(悪性新生物・脳血管疾患・心疾患)をみると、年齢とともに平均入院日数は増加するが日数の変化は同じではない。受療率(疾病になり入院する割合)と平均入院日数でも年齢ごとに疾病の特性があることが確認できた。
4.3 保険原価による分析
 保障内容として重要な保障限度日数及び不担保日数について、パターンによりどのように保険料が変化するのか年齢階層別に計算して分析した。
不担保日数と保障限度日数については、若年層では不担保日数を0日から7日にすることで保障期間を長くしても保険料を同程度にすることができるが、年齢階層が高くなると短期入院患者が少なくなるため保障日数とのトレードオフはできなくなる。これは、販売されている商品の不担保日数が7日までである影響が大きい。販売されている商品においては、年齢と保障日数において重要であることが確認できた。

5. 分析結果
5.1 分析による結果
 本研究では、民間の医療保険商品の加入についてリコメンデーションする場合、商品の選択より保障期間、想定年齢及び想定年齢時における疾病または疾病群が重要な項目であることが明らかになった。
5.2 結果から最適日数算出
 医療保険加入で一番悩む保障日数について、疾病になる確率は同じであってもある特定の疾病(例えば
悪性新生物・心疾患・脳血管疾患など)になる確率が高いことが判明したと仮定し、各年齢の支払保険料と給付金の期待値から実質負担率を計算し、疾病ごとに最適保障日数について算出した。

年齢階層ごとで病気により加入する日数は異なった。若年層では長期入院患者がいないため日数は短期間での加入となるが、高齢になると疾病ごとに患者分布が大きく異なるため、最適な日数も大きく異なる。

6. まとめ
従来の研究では、保険会社の立場による引き受けリスクの観点から、公的医療制度や人口構成・疾病構造などが述べられていたが本研究では、加入予定者の立場をとりアプローチした。将来加入予定者が自らの疾病の状況を正確に予測できるようになった時には、本研究の内容を応用することにより、加入予定者は今までなんとなく決めていた保障期間を保険料負担が最小で最適な保障期間を選択できる。